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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)93号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、以下に説示するとおり、両意匠間の顕著な差異を看過し、ひいて、両意匠の類否の判断を誤つたものであり、取消を免れない。すなわち、本願意匠及び引用意匠の構成が、本件審決認定のとおりであること並びに本願意匠に係る物品である運搬用容器は斜め上方から見た同容器の態様も重視されるべきであることは、被告の認めて争わないところである。しかして、本願意匠と引用意匠の叙上の各構成を、本願願書に添附した図面であることに争いのない別紙図面及び成立に争いのない甲第二号証の一、二を参酌して対比すると、本願意匠は、底面には、板体の大きさがほぼ縦四、横五の割合の斜め格子状の板体を設け、この斜め格子状の態様は、後記仕切板の厚さのほぼ二倍の幅を有するふちどりが板体の左上方から右下方へ九本、右上方から左下方へ九本それぞれ等間隔に配されており、これらふちどりによつて板体には合計三十二箇の正方形の桝目のほか、上、下、左及び右の辺側に合計十四箇の三角形の空間部が生じている態様となつており、この板体の内部側に、縦方向に四枚、横方向に三枚の仕切板を、縦横の格子状に等間隔に設置して、この七枚の仕切板によつて合計二十箇の正方形が生じ、これら仕切板の下端と前記の態様の板体内部側とは、仕切板の下端が、板体の中央部分の合計十二箇の正方形の桝目をその中央を交点として桝目の一方の角とこれに対向する角とを結んで十文字に区切るように、また、板体の三角形の空間部をその頂点から下辺に垂直に区切るように、組み合わされているに対し、引用意匠は、底面は、板体の大きさがほぼ縦三、横四の割合の縦横の格子状の板体を設け、この格子状の態様は、幅の細い、後記仕切板の厚さとほぼ同じのふちどりが等間隔に配されていて、これらふちどりによつて板体には合計九箇の正方形の桝目のほか、上、下、左及び右の辺側には合計十箇の長方形が生じており、この板体の内部側に縦方向に三枚、横方向に二枚の仕切板を縦横の格子状に等間隔に設置して、この五枚の仕切板によつて合計十二箇の正方形が生じ、前記板体のふちどり部分が十文字形をなす部分が、前記仕切板によつて生じる各区画の中央を交点としてこの各区画を縦横十文字に区切るように組み合わされており、叙上のとおり、本願意匠の底面は斜め格子と縦横の格子が組み合わされた形状を呈しているに対し、引用意匠の底面は単純な縦横の格子状を呈しているという差異が認められるところ、叙上事実に、前記本願意匠の構成及び成立に争いのない甲第三号証を総合することにより認めうべき本願意匠に係る物品である運搬用容器においては、斜め上方から見た場合に底面部分の前認定の斜め格子状がかなり明瞭に観察することができること(なお、本願意匠の認定に当たり、斜め上方から見た同容器の態様も重視されるべきであることは、被告においても異論のないところである。)を参酌考量すれば、本願意匠は、その全体として、見る者に与える意匠としての印象において引用意匠と著しく異なるものがあるとするを相当とし、右認定を覆すに足る証拠はない。したがつて、両意匠は互いに類似するものとはいいえない。

本件審決は、両意匠は、周側の窓の構成、縦横のリブの構成、配置及び仕切板の構成形態等からなる基礎的構成態様が全く酷似し、これを全体として対比する場合、この点が、最も看者の注意を引き、かつ、両意匠成立の支配的要素であるとする。しかして、両意匠が、周側の窓、縦横のリブの各構成、配置及び仕切板の構成形態において、意匠としての共通性を有することは、前段認定の両意匠の各構成に徴し明らかであり、その限りにおいて、まさに本件審決の説示するとおりではあるが、これらの点が、両意匠の基礎的構成態様であるとか、あるいは、最も看者の注意を引き、かつ、両意匠成立の支配的要素であると断ずることは、当を得たものということはできない。すなわち、両意匠は、それぞれ、これをその全体として観察する場合、その間に前認定のような差異があり、本願意匠は、このため、前掲共通点にかかわらず、引用意匠とは異なる美観を見る者に与えるものとみるを相当とするから、両意匠間に前掲の共通点があるからといつて、直ちに本願意匠をもつて引用意匠と類似するものとすることはできない。

被告は、本願意匠に係る物品である運搬用容器は、収容物を収容した状態で置かれることが普通であり、底面が見られるのは使用時の一瞬にすぎないから底面が斜め格子である点は意匠の類否判断を左右する程の要素たりえない旨主張するが、同容器(単なる収納容器ではなく、運搬も目的とする容器)が常に底面の全部又は一部を確認しえない程度に収容物を収容した状態に置かれるものと限らないことは我々の日常の経験に徴し明らかであり、もとより底面が見られるのは使用時の一瞬にすぎないと速断しうるものではないから、被告の右主張は採用し難い。なお、被告は、この種運搬用容器の底面は、意匠的には第二義的部分であり、本願のような態様における内底面の意匠的効果は、全体としてみる場合、部分的小差に止まる旨主張するが、そのような主張のたやすく採用し難いことは、前説示に徴し明らかであろう。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。

〔編註その一〕本件における当事者の主張は左のとおりである。

請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四十年三月三十日、「運搬箱」(後に「運搬用容器」と訂正)を意匠に係る物品とする別紙図面の意匠につき、意匠登録の出願をしたところ、昭和四十二年八月十七日、拒絶査定を受けたので、同年十二月七日、これに対する審判を請求し、昭和四二年審判第八、八六七号事件として審理されたが、昭和四十八年四月四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年六月三十日、原告に送達された。

二 本件審決理由の要点

本願意匠は、縦三、横四、奥行三・二の比からなる隅丸長方形の筒状体において、底面に斜め格子の板体を設け、上縁と下縁及び上縁から高さの十分の一に当たる周側面に、水平に各一本のリブを表し、正背面及び左右側面において、両側から正面横幅の約十分の一に当たる部分に、上下縁のリブに達する各一本のリブを垂直に設け、更に、正背面及び両側面において、上縁寄りのリブと下縁のリブとの間を上下に二分するリブを、左右の縦リブに連結して水平に表し、上部の区画を広い長方形の窓とし、曲面をなす各角部において、上縁寄りリブと下縁のリブの中心部に、内方に向かつて小さな三角板状の凸条を設け、また、内部に、上面が三角山形が連続した形で、山の下部が截頭円錐形状の透孔をなす七枚の仕切板を、四周の窓部下縁よりもやや低く、山の部分で直角に交叉する形で格子状に設けた態様からなるものである。

これに対し、本願出願前公知の外国雑誌「EMBALLAGES」一九六四年八~九月号第百頁所載の運搬箱の意匠(以下「引用意匠」という。)は、縦五、横七、奥行五の比からなる隅丸長方形の筒状体において、底面に格子状の板体を設け、上縁と下縁及び上縁から高さの約十分の一に当たる周側面に、水平に各一本のリブを表し、正背面及び左右側面において、両側から正面横幅の約十分の一に当たる部分に、上縁寄りのリブの直下から下縁のリブに達する各一本のリブを垂直に設け、更に、正背面及び両側面において、上縁寄りのリブと下縁のリブとの間を上下に二分するリブを、左右の縦リブに連結して水平に表し、上部の区画を広い長方形の窓とし、曲面をなす各角部においては、上縁寄りのリブの中央下部から、高さの約二分の一程度の縦リブを一本設け、また、内部に、上面が三角山形が連続した形で、山の下部が截頭円錐形状の透孔をなす五枚の仕切板を、四周の窓部下縁よりも低く、山の部分で直角に交叉する形で格子状に設けた態様からなるものである。

両意匠を対比するに、縦横の比にわずかな差異があり、また、曲面をなす角部の凸条の形とか、仕切板によつて形成された目の数及び底面が格子か斜め格子かの点において多少の差異があるが、他方、両者はともに、前記のように、周側の窓の構成、縦横のリブの構成、配置及び仕切板の構成形態等からなる基礎的構成態様が全く酷似しており、これらを全体として対比するときは、構成態様において一致する点が最も看者の注意を引き、かつ、両意匠が成立する支配的要素をなしているものと認められるものであつて、前記のような差異は部分的小差に止まり、これが類否判断を左右する程のものということができない。

以上のとおりであるから、全体としての両意匠は類似であることを免れない。したがつて、本願意匠は意匠法第三条第一項第三号の規定に該当し、登録をすることができない。

三 本件審決を取り消すべき事由

本願意匠及び引用意匠の構成は本件審決認定のとおりであるが、本件審決は、両意匠間の次のような差異を看過し、ひいて両意匠の類否の判断を誤つたものであるから、違法として取り消されるべきである。すなわち、

(一) 本願意匠において、底面は、斜め格子状となつていて、これに縦横の格子状仕切板が立設されているので、本願意匠の容器を上方より見るときは、その内部は斜め格子と縦横の格子が組み合わされた形状を呈し、看者に特別顕著な印象を与えるに対し、引用意匠において、底面は、ごくありふれた縦横の格子状をしているのみであり、斜め格子状とはなつていないから、上方より見た場合の印象は、両者全く趣を異にしているし、また、引用意匠においては、曲面をなす各角部に、上縁寄りのリブの中央下部から、高さの約二分の一程度の縦リブが一本設けられていて、これが引用意匠の大きな特徴の一となつているに対し、本願意匠においては、これに相当する縦リブはなく、該当の箇所には、上縁寄りのリブと下縁のリブとの中心部に内方に向かつて三角板状の凸条が設けられているのであるから、両者は角部の形状を異にし、更に、引用意匠においては、容器の内部下方に設けられた格子状仕切板によつて縦三、横四の十二の区画に仕切られているに対し、本願意匠においては、同様の格子状仕切板によつて縦四、横五の二十の区画に仕切られ、両者は容器内部の構成を異にしている。

(二) しかして、瓶体「運搬用容器」は、その使用の常態からいつて斜め上方から観察されることが最も多いので、看者の注意も、当然、斜め上方から見た際に表れる形状に最も惹きつけられ易いものであるから、この種物品の意匠類否判断においては、斜め上方から見た際に表れる形状の相違が重視さるべきものである。しかして、両意匠にみられる前記相違点は、これらを斜め上方から観察した場合に直ちに眼につき、かつ、極めて顕著であるから、両意匠を全体的に観察した場合、両者は意匠的効果を異にする非類似の意匠というべきであり、この顕著な差異を部分的な小差として看過し、この種物品に通有の、ありふれた構成態様のみに着目して、本願意匠は引用意匠に類似するとした本件審決の判断は、誤りというべきである。

被告は、底面が斜め格子状である点など確認のしようがない旨主張するが、両意匠においては、四周の側壁上方には大きな角窓が、また仕切板には截頭円錐形状の透孔がそれぞれ設けられているので、内底面の形態は、これら角窓及び透孔を通してかなり斜めの方向からでも容易に視認することができるところ、本願意匠を有する運搬用容器において、その底面の態様、特に底面が斜格子状となつている形状は、垂直線に対し五十度の傾斜角度からでも視認しうるのであるから、両意匠を斜め上方から見た場合、底面形状の顕著な相違は、直ちに眼につくものである。被告は、また、本願意匠にかかる物品は収容物を収納した状態で置かれることが普通であり、底面が見られるのは使用時の一瞬にすぎないこと等を理由に、底面形状の相違は意匠の類否判断を左右するものではない旨主張するが、意匠の類否判断は、意匠を表すべき物品自体の対比によつて決せられるべきで、その物品が使用された態様のみをもつて判断されるべきものではない。両意匠は、瓶体の収納、運搬の用に供せられる容器に係るものであるから、その内部に瓶体を収納することは、物品の用途、機能から当然予定されてはいるが、運搬用容器としての意匠の類否判断は、物品そのものの対比においてすれば足り、その使用状態は関係がない。なお、この種物品の取引において、需要者の購入意思の決定は、通常、内部に瓶体を収納しない状態で行われているし、工場で生産し出荷する場合、需要者間の取引において容器を回収する場合等には、瓶体を収納しない状態で置かれることが普通であり、これらの場合には、底面の態様は、斜め上方より見れば容易に視認することができる。被告は、更に、両意匠は周側の窓及び縦横のリブの構成並びに配置及び仕切板の構成形態等の基礎的構成態様が酷似しているから、これを全体として対比した場合、両意匠は類似している旨主張するが、瓶体運搬用容器において、周側に手掛り穴兼通風用の窓を設けること、周側面に縦横のリブを立設すること、内部に縦横格子状の仕切板を設けること及び仕切板の上面を三角山形にすることは、いずれもこの種物品に普通に見受けられるありふれた機構的構造にすぎない(昭和四二年審判第八、八六九号審決参照)。しかして、意匠の類否判断において、ありふれた部分は小さく評価され、特徴のある部分は大きく評価されるのであるから、両意匠が前記の基礎的構成態様において共通するところがあるとしても、それはこの種物品にありふれてみられる構成態様として、意匠の類否判断を左右する程の重要な要素とはなりえない。

被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

原告の主張事実中、特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が、原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。本件審決の認定、判断は正当であり、原告主張のような違法の点はない。

本願意匠及び引用意匠の構成が原告主張のとおりであること、並びに本願意匠に係る物品である運搬用容器は斜め上方から見た態様をも重視すべきであることは争わない。しかしながら、両意匠の間に存する原告主張の差異については、いずれも部分的少差にすぎないから、意匠の類否判断を左右するに足りない。すなわち、本願意匠に係る物品であるこの種運搬用容器は、収容物を収納した状態で置かれることが普通であり、底面が見られるのは使用時の一瞬にすぎず、また、空箱で積み重ねる場合でも、一般に上縁に沿つて窓(手掛け孔)が設けられていることや、下方が重いなどから、わざわざ底面を上にして積むこともないし、また、深い箱体であるから内底面などほとんど見えないのみならず、その上面に高さのほぼ二分の一の高さを有する仕切板が縦横に交叉して設けられ、二十箇の桝形に区切られたものであり、引用意匠と対比する場合、窓部等から引用意匠と全く形状の近似する仕切板の形態が散見するだけであり、底面が斜め格子である点は確認のしようがないものであるから、類否判断を左右する程の要素とはなりえない。実験報告書(甲第三号証)に添付の写真は、特異な、真横からのみ角度を選定して撮影されており、視覚を通した自然な状態を再現するものでもないのみならず、この写真によつて両意匠を対比しても、底面は散見しうる程度にすぎない。意匠の創作は、常にその物品の使用目的、使用態様によつて制約されるところ、本願意匠にかかる運搬用容器は一種の商品容器であるから、これを購入するに当たつては、直接の需要者は、自己の販売する商品について、この商品購入者に与える印象に最も重点を置くものであり、通常の状態における外観を無視して、見えにくい底面部分の意匠的効果を第一義的に考えることは異常である。この種物品の底面は、意匠的には第二義的部分であり、本願のような態様における内底面の意匠的効果は、全体としてみる場合、部分的小差に止まる。また、両意匠は、隅丸の深目の箱体において、上縁と下縁及び上縁から高さの十分の一に当たる周側面に、水平に各一本のリブを設け、正背面及び左右側面において、両側から正面横巾の約十分の一に当たる部分に各一本の縦リブを設け、更に、各面上縁寄りのリブと下縁のリブとの間を上下に二等分するリブを、左右の縦リブに連結して表し、上部の区劃を広い長方形の窓とした構成態様が酷似し、窓部から形態の近似する仕切板が散見する態様から、原告が主張する角部の形状の差異は、部分的な小差にすぎない。更に、両意匠は、上面が三角山形が連結した形で、山の部分の下部が、截頭円錐形状の透孔をなす仕切板を、四周の窓部下縁よりやや低い高さとし、山の部分で直角に交叉する形で格子状に設けた点で一致し、この仕切板が、隅丸長方形の箱体の内部一杯に、箱体の高さに対して前記の高さで構成されている態様が、看者に与える類似感に変りはなく、この点からみれば、縦横に仕切板を各一枚多く使用したことによる桝形の数の多少の差異は、看者の印象を左右する程の要素とはならない。

なお、原告は、ありふれた部分の共通性はこの種物品の意匠類否判断を左右する程の要素とはなりえない旨主張するが、この種物品において、手掛け孔を設けることは普通ではあるが、その外壁との比率、窓の形が種々であること及び仕切板の形状も一律でないことなどこれらの構成のいかんによつて非類似と認められる種々の異なる意匠が創作されるのであるから、右主張は理由がなく、仮に、引用意匠の外観がありふれたものであつたとしても、物品の性格上、これが全体観察において最も看者の注意を引く支配的要素をなし、この点において両意匠が酷似しているのであるから、見えにくい底面部分の小差をもつて、両意匠を非類似とすることはできない。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙

<省略>

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